ケータイ辞書JLogosロゴ 伊勢物語
【いせものがたり】

主要作品解説


作者・成立
作者は未詳。原初段階にあっては在原業平ありわらのなりひらがかかわっていたとし、増補の段階でも在原氏の一族が関係しているという説が、近年しだいに認められつつある。 『源氏物語』絵合の巻には伊勢物語とあるが、総角の巻には在五が物語、『狭衣物語』巻一には在五中将の日記とあるように、古くから在原氏の五男で中将であった業平が作った物語、ないし書いた日記と見られていた。 成立は平安時代前期から中期。原初段階にあたるものが成立したのは『古今和歌集』(九〇五年成立)以前と考えられるが、その後、何段階かの増補を経て、十世紀半ばごろまでには現在の形になったとする説が有力である。 題名の伊勢については未詳であるが、「狩りの使ひ」などと呼ばれる第六九段、「むかし、男ありけり。その男、伊勢の国に狩りの使ひに行きけるに…」に由来するという説が、比較的支持されている。 『古今和歌集』時代の歌人である伊勢がかかわったとする説もある。
内容・構成
歌の詠まれた事情や、時に歌の批評も記す散文と歌とから成る短編の物語が、総計百二十五段集められた歌物語。在原業平らしき男を主人公として、その「初冠うひかうぶり」(=元服)から死までの一代記を語る構成をとっている。ただし一段一段は独立していて、必ずしも一貫したすじにはなっていない。 多くの章段の主題は男女の恋愛で、まとまっているものに第三~第六段の二条の后きさき章段、第六九~第七二段の伊勢の斎宮さいぐう章段などがある。 ほかに内容的にまとまった章段としては、うるわしい主従関係を語る第八二~第八三・第八五段の惟喬これたか親王章段、旅情・望郷の念や地方での恋を描く第七~第一五段の東国章段がある。 また、親子・家族の愛情や友情を主題とする段も注目される。第六段「芥川あくたがは」(または「鬼一口」)、第九段「東下り」、第二三段「筒井筒つつゐづつ」、第八二段「渚なぎさの院」、第八四段「さらぬ別れ」、第一〇七段「身を知る雨」などは特に有名である。
文体・特色
ほとんどの章段が「むかし、男ありけり」、または「むかし、男」で始まっている。また、過去のことを伝聞的・報告的に回想して述べる「けり」が多く用いられている点も特徴的である。 どの章段も、登場人物の心情や行動を説明する簡潔な文章と詠んだ歌とが互いに支え合い、散文と和歌とが一体となって一つの世界を作り出しており、さまざまな局面における人間の真情を写し出した話として読者の共感を呼んだ。そのため後世への影響は絶大で、『蜻蛉日記』や『源氏物語』若紫の巻、中世の謡曲『井筒』『杜若かきつばた』をはじめ、近世の美術工芸品にまではかり知れない影響を与えている。
本文と現代語訳
第一段 若紫[本文] むかし、男、初冠して、平城なら の京、春日かすがの里にしるよしして、狩りにいにけり。その里に、いとなまめいたる女はらから住みけり。この男、かいまみてけり。思ほえず、ふる里にいとはしたなくてありければ、心地まどひにけり。男の着たりける狩衣かりぎぬのすそを切りて、歌を書きてやる。その男、しのぶずりの狩衣をなむ着たりける。春日野の若紫のすり衣しのぶのみだれ限り知られずとなむ、追ひつきていひやりける。ついでおもしろきことともや思ひけん、みちのくのしのぶもぢずり誰たれ ゆゑにみだれそめにし我ならなくにといふ歌の心ばへなり。昔人は、かくいちはやき雅みや びをなんしける。[現代語訳] 昔、男が元服して、平城京のほとりの春日の里に領地を所有している縁で、鷹たか 狩りに出かけていった。その里に、たいそう若く美しい姉妹が住んでいた。この男は、姉妹をのぞき見てしまった。思いがけなくも、旧都に心を取り乱してしまった。男が着ていた狩衣の裾すそ を切り取って、歌を書いて届ける。その男は、しのぶずりの狩衣をちょうど着ていたのだった。春日野の若々しい紫草のようなあなたを見て恋い忍び、このしのぶずりの衣の模様のように限りも知られぬほど思い乱れています。と、間をおかず詠んで届けたのだった。折からぴったりだと興をもよおしたからだろうか、陸奥みちのくのしのぶもぢずりの模様のように、私の心がすっかり乱れるようになったのはだれのせいでしょうか。私でなく、あなたのせいなのですよ。という河原左大臣(=源融とおる)の歌の趣旨に一致するのである。昔の若者は、このようにすばやい風流なふるまいをしたものだ。 第一二四段 我とひとしき[本文] むかし、男、いかなりけることを思ひけるをりにか詠める。思ふこといはでぞただにやみぬべき我とひとしき人しなければ[現代語訳] 昔、男がどのようなことを思った折であろうか、歌を詠んだ。心に思っていることはだれにも言わないで、黙ったままですまそう。私と同じ心をもっている人などいないのだから。 第一二五段 つひにゆく道[本文] むかし、男、わづらひて、心地死ぬべくおぼえければ、つひにゆく道とはかねて聞きしかど昨日きのふ今日けふ とは思はざりしを[現代語訳] 昔、男が病気になって、今にも死にそうに思われたので、だれでも最後には行かなければならない道であるとは、かねて聞いていたけれども、きのうきょうのこととは思ってもみなかったよ。
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(C)東京書籍[全訳古語辞典('06/2)]
JLogosID:5113638
最終更新日:2007-12-11




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